管狐物語
翌日の桜は、また前のように、とびっきり明るい笑顔で学校に行った。
祖母は、ホッとして、大きく手を振る桜を笑顔で、見送った。
ごほんっごほんっ!
祖母の咳が、部屋に響く。
近頃、咳が止まらない…
なんだか、体もだるかった…
祖母は、自分の部屋の机の引き出しを、ゆっくり開ける。
その中には、古びた筒が五つ入っていた。
昔は白かったろう薄汚れた筒に貼られた紙には、封印と赤文字で書かれている。
自分がコレを受け継いだ日を思い出し、ふっと微笑み、管霊狐を撫でる。
「どうか、桜をお守り下さいね…」
小さい頃に、両親を亡くした桜の肉親は、もう自分しかいない。
ところが、どうにも自分にも時間がないようだ…。
自分が死んだら、桜はきっと、会った事もない親戚中をたらい回しにされるかもしれない。
この家は、桜に譲るつもりだが、まだ小学生の桜1人で生きていける訳がない。
だから、どうか桜を守って欲しいと、管狐に願う。
それしか、自分にはしてやれないのだ…
静かな空気の中、祖母は引き出しを閉めた。
今日も暑くなるだろう…
一気に蝉の鳴き声が響き渡った…