管狐物語
2、はじまりの物語

冬の厳しい寒さが、嘘のように暖かくなり、この雪深い小さな村にも、桜の花がちらほら咲き始めていた。

今年は豪雪だった為、まだ雪は残っているが、それも咲き始めの桜と綺麗なコントラストをつくっていた。




バスを降り、祖母と一緒に住んでいた家を見下ろす事ができる場所で、飯塚 桜は、持っていた旅行用鞄を下に置き、両手を広げ深く深呼吸をして、久しぶりのこの村の新鮮な空気を思い切り吸い込んだ。


その空気は、桜の体に染み渡るような、心地良さを感じさせ、生き返らせてくれる。



「…我慢したかいあった…!
おばあちゃん、やっと帰って来れたよ!」

桜は、昔のような明るい笑みを浮かべ、懐かしいこの村に帰って来れた事を、嬉しく思った。






ざあっと木々が鳴る…



まるで今は亡き祖母が、「おかえり…」と言ってくれているみたいだと、桜は思った。




ふぅ…と軽く息を吐き、鞄を持ち上げ、懐かしのあの家に向かって、桜は歩き出した。
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