誘惑のプロポーズ

入ってきた人を見て驚いた。


「実穂」

「卓巳(たくみ)!どうして?!」


企画の加藤卓巳課長と言えば、社内人気ナンバーワンの仕事ができるイケメン。

その彼と何となく身体を重ねる仲になったのは入社して三年目の頃。

いつもの同期の飲み会に北川が上司の彼を連れてきた夜、方向が同じだからと一緒に帰った日が最初だったと思う。


「常務のこと聞いた。それでおまえは?」

企画にまで知れ渡っているんだ。

深いため息がこぼれる。

「お咎めなし、というわけにはいかなかった わよ……」

まさか上司が情報漏洩していたなんて夢にも思わなかった。

羽振りがいいのは実家がお金持ちだから位にしか考えてなかった私は秘書失格と言われても仕方ない。

共犯でないことは信じてもらえたけれど、だからって知らなかったですむ話ではなくて。

「どうなるって?」

「わからない。どっか支店に飛ばされるかも
 しれない。そうしたら色々陰口言われて、
 ろくな仕事につかせてもらえないよね…
 いっそこれを機に辞めよっかな」

「辞めてどうするんだ?」

そこが問題。

ホント、どうしよう?

「そうねー、夜の蝶になるにはちょっとばか
 り董(とう)がたってるし、思いきってお見
 合いでもして同期の結婚ラッシュに私も
 乗ろうかな……」

新人研修中に仲良くなった同期の仲間達が昨年から次々と結婚している。

真優(まゆ)と眼鏡王子こと手塚さんが去年の6月でそのあと11月に翔平と環(たまき)がして今年の5月は絶対に別れると思っていた田辺と里美。

そして来月は…

「あ、そうそう。北川と果乃ちゃんの結婚式
 だけど卓巳スピーチ……」

話の途中でふいに強い力に抱き締められた。

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