愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『頭をあげなさい、ふたりとも。心配しなくても大丈夫だ』


私達は頭を上げた。


『本当か?』


『あぁ。君たちはどこまで話を知っているか分からないが、エフプリント工業はあの製本技術の開発にあたって相当銀行からの融資を受けており、それにつまづいた今、資金繰りに相当苦労している。無論、契約はするつもりないけどな』


『やっぱり、流通センターの土地取得が目的か?』


『そこまで知っているか。このまま行けば、自分の息子を差し出さなくても結果的に土地は手に入る。でも、製本技術が信用できるもので、エフプリント工業の業績が良くたって、今回の結婚話はなしだ。なぜなら、私も、玲奈さんの夢を応援したいからな』


「あ、あの…」


健吾さんのお父さんは私を見て笑った。


『フフフ。玲奈さん、私の呼び方に困っているんだろう?』


あ、バレてる。私は龍成社の社員じゃないから"社長"じゃないし、私のお父さんじゃないから"お父さん"とも違うし…
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