愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『もういい。大森、座れ』


ユウコちゃんは、静かに着席した。


『この"厚顔無恥"の"厚顔"という言葉だけでも、"厚かましく恥知らずなさま"を意味するんだけど、中国最古の詩集にも使われていたり、日本でも平安時代の漢文を通して内面の醜さを表す言葉として用いられたらしいから、いつの世にも必ず"厚顔"な人間がいたってことが伺えるよな』


健吾は教卓を降りて、窓に寄りかかった。


『人の性格は十人十色だ。だからこれから先、こんな人間になりたい、と思う人と出逢えたらいいんだろうけど、そうはうまくいかない。中には、こんな人間にはなりたくない、という出逢いがあるかも知れない。それこそこの"厚顔無恥"な人間とか』


教室に、健吾の声が響く。


『でも、それをマイナスな出逢いだと思わずに、こういう態度を取ったら人は迷惑するんだ、とか、こういう言葉を言えば、人は傷つくんだ、とか、その人から学び、反面教師にすることで、おのずと自分の人間性は向上するのかな、と俺は思う』


健吾は窓に寄りかかっていた体を起こした。
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