愛されることの奇跡、愛することの軌跡
家では、誰も注意してくれる人間はいなかった。


みんな自分を甘やかした。


『根気強く、その先生は俺に付き合ってくれて。まぁ、他の人にしてみれば大したエピソードではないんだろうけど、俺にとっては大きな出会いだった』


健吾は、教卓の段差を降りて、通路を歩き出す。


『さらに思ったのが、教師という職業は、良くも悪くも教え子たちに影響を与えるものだと言うこと。悪い方向に傾いてしまう場合もあるかも知れないけど、俺は、俺みたいな周りから間違った接し方をされている子供たちを、自分の手で救ってみたいと考えるようになったんだ』


健吾が後ろの壁を向いていた体を、回転させ、その場で話し始める。


私の斜め後ろ。美郷の真横。


『当時は、まだ漠然とした夢だったけど、ある程度進路を決めなければならない高等部3年の時点でもその気持ちが確かだったから、俺は自分に与えられた夢を叶えられるタイムリミットの2年間を、小学校教師という職業に使った』


健吾は、美郷の後ろを通り、また前に向かってゆっくり歩いた。
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