愛されることの奇跡、愛することの軌跡
一瞬、陽平を見た健吾。


陽平が頷く。

『さて、これから3曲、披露いたします。先程少し合わせた程度なのでかなり演奏は不安ですが、ぜひお楽しみください。アルトサックス、金澤玲奈。テナーサックス、上杉陽平。バリトンサックス、山田伊知子。そしてソプラノサックスは僕、成瀬川健吾でお送りします。それでは、お聞きください』

着席し、陽平の合図で演奏した。


練習の時からそうだったけど、健吾の演奏は完璧。


どこで練習したんだろ?


トレモロをやる手。


柔らかい音色。


でも確実に私より練習時間が少ないはずの健吾の方が、断然完成度が高い。


本番の今も、緊張なんて全く感じられず、私はもちろん、会場の女子たちを虜にするには十分なものだった。


演奏が終わり、案の定囲まれてしまった健吾。


『そう、ムクれるなって。男はモテてなんぼでしょ』


健吾が囲まれている姿を遠巻きに見ていた私に陽平が声をかけてきた。
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