愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『花は私の心を落ち着かせる。たまたま入った蘭の展覧会でそう思ったの。私、隙間を埋められるものが見つかったって。それからは、押し掛けて花屋で働くようになって』


やっぱり血筋だろうか。


良美さんと同じ趣向を持っているんだろうな。


『これが天職だと思うんだけど、お父さんから見合いとか、結婚の話が来る度に、思い出すのはライちゃんだった。高等部を出てから全く会ってなかったけど』


実穂は俺を見た。


『会ってなかった時は、健吾と遊んでたのね。あなたも独り暮らしだし、全然知らなかった』


俺も、先輩が実穂の想い人だったなんて知らなかった。


どんだけ姉弟のコミュニケーションがなかったんだ…


『去年の1月に、同窓会があってね。そこでライちゃんと再会したの。ホテルマンのライちゃんは、より一層男に磨きがかかっててさ。花屋の仕事で手が荒れちゃった化粧っ気のない私とは大違いで』


確かに、実穂は年を重ねるごとに化粧が薄くなってる。
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