愛されることの奇跡、愛することの軌跡
『そういうこと。と、なるとその女性に"振られる"のは、時間の問題だった』


健吾は、黒板脇の壁に寄りかかった。


『それからも、時々ここに来ては、彼女の姿を追った。でも、声は掛けられなかった』


『どうして?』


誰かの声。


『声をかけたところで何になる?俺は札幌だし、彼女はまだ高校生。発展的な話なんて出来るわけがないだろ?だから、俺は東京に戻って、もし彼女に彼氏がいなければ、彼氏として改めて立候補しようと決めたんだ。そこからは、猛烈な片想いとの戦いだったよ』


健吾はそう言って微笑んだ。


『札幌での教師生活を終えて、東京に戻ってきた俺は、ここの学院長からのオファーもあって、田村先生の代わりを勤めることになった。ところが…俺はクラスの名簿を見た時、愕然とした』


健吾は寄りかかっていた体を起こし、教卓の前に移動した。


『なぜなら、その名簿の中に、一目惚れの彼女の名前があったからだ』
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