“君”という希望に縋らせて.
私がふっと瞼を伏せると、不意に周りの女子たちが黄色い悲鳴をあげた。
それはギャルたちも例外では無くて、彼女たちはまるで王子様を見るお姫様のようにキラキラとした瞳を浮かべて、ある一点を見つめている。
――ああ。いや、違うか。本当に"王子サマ"なんだ。
耳に突き刺さる鋭い悲鳴に目を眇め、私は彼女たちの視線を追うように廊下へと視線を向けると、そこには恐らくは女子全ての熱い視線を受けているであろう男子生徒が一人。
サラサラの茶髪の髪にキメの細やかな白い肌。男子の癖して無駄に長い睫毛で縁どられた瞼は伏し目がちで、そこから覗く瞳もまた色素の薄い茶色だった。
すらりと伸びた手足は驚くほど長く、その身に纏う制服は真面目すぎず、けれど不真面目過ぎないほどに着崩されている。
耳にたくさんのピアスをつけているにも関わらず、不良に見えないのは彼独特の雰囲気のせいなのだろうか。
まるで雑誌の中から飛び出したような、いわゆるイケメンな彼、雪城透也(ユキシロ トウヤ)は女子の間では"王子サマ"とか何とか言われてかなりモテている。
並大抵の男では満足しないギャルたちの心も射とめた彼は、しかし女子とはほとんど口を聞くことはない。
口を開いたとしても、発されるものは冷たいものばかり。泣かせた女は数知れないとか何とか。
……ちなみに、この情報はすべてこのギャルたちからのものである。
私自身は、全く彼のことに興味無い。てか、男に興味なんてない。
それ以上に、人に興味が無い。
恐らくは、雪城くん異常に冷めた目をしているだろう私の肩を、興奮したギャルが思いっきり高く。
イヤ、痛いから。ちょっとは手加減しろよ。アンタ。
「マジヤバい! 王子に会えるとかうちら超ついてんじゃない? ちょっとアタックしてくるわ」
「あ、ちょっと待って。マナも行くぅ」
「……」
私の肩を叩いたのはナニ?
私以外のギャルたちが一斉に雪城くんの元へ行くギャルたちを見送り、取り残された私はケータイをいじり始める。
と、アプリを開いた途端に受信音が鳴り、私は思わず眉間に皺を寄せる。
こんな時間にメール寄こす奴なんて、あの人以外考えられない。
気だるげに受信ボックスを開くと、案の定。メールを送って来たのは……お母さんで。
今日は何時に帰ってくるの? 待ってるからね、って。
「……ホントは帰ってきて欲しくない癖に」
いつの間にか、教室に女子は私一人。
女子たちの黄色い悲鳴にかき消され、私の呟きは誰に届くこともなく消えて言った、と。
――私はずっと、そう思っていた。
それはギャルたちも例外では無くて、彼女たちはまるで王子様を見るお姫様のようにキラキラとした瞳を浮かべて、ある一点を見つめている。
――ああ。いや、違うか。本当に"王子サマ"なんだ。
耳に突き刺さる鋭い悲鳴に目を眇め、私は彼女たちの視線を追うように廊下へと視線を向けると、そこには恐らくは女子全ての熱い視線を受けているであろう男子生徒が一人。
サラサラの茶髪の髪にキメの細やかな白い肌。男子の癖して無駄に長い睫毛で縁どられた瞼は伏し目がちで、そこから覗く瞳もまた色素の薄い茶色だった。
すらりと伸びた手足は驚くほど長く、その身に纏う制服は真面目すぎず、けれど不真面目過ぎないほどに着崩されている。
耳にたくさんのピアスをつけているにも関わらず、不良に見えないのは彼独特の雰囲気のせいなのだろうか。
まるで雑誌の中から飛び出したような、いわゆるイケメンな彼、雪城透也(ユキシロ トウヤ)は女子の間では"王子サマ"とか何とか言われてかなりモテている。
並大抵の男では満足しないギャルたちの心も射とめた彼は、しかし女子とはほとんど口を聞くことはない。
口を開いたとしても、発されるものは冷たいものばかり。泣かせた女は数知れないとか何とか。
……ちなみに、この情報はすべてこのギャルたちからのものである。
私自身は、全く彼のことに興味無い。てか、男に興味なんてない。
それ以上に、人に興味が無い。
恐らくは、雪城くん異常に冷めた目をしているだろう私の肩を、興奮したギャルが思いっきり高く。
イヤ、痛いから。ちょっとは手加減しろよ。アンタ。
「マジヤバい! 王子に会えるとかうちら超ついてんじゃない? ちょっとアタックしてくるわ」
「あ、ちょっと待って。マナも行くぅ」
「……」
私の肩を叩いたのはナニ?
私以外のギャルたちが一斉に雪城くんの元へ行くギャルたちを見送り、取り残された私はケータイをいじり始める。
と、アプリを開いた途端に受信音が鳴り、私は思わず眉間に皺を寄せる。
こんな時間にメール寄こす奴なんて、あの人以外考えられない。
気だるげに受信ボックスを開くと、案の定。メールを送って来たのは……お母さんで。
今日は何時に帰ってくるの? 待ってるからね、って。
「……ホントは帰ってきて欲しくない癖に」
いつの間にか、教室に女子は私一人。
女子たちの黄色い悲鳴にかき消され、私の呟きは誰に届くこともなく消えて言った、と。
――私はずっと、そう思っていた。