ロッシュの限界
「…」
「……」
ただ並んで立っている。
呼び止めたくせに、それきり佐藤は何も言わないから
あたしは仕方なく、目の前の景色をぼんやり眺める事にした。
フェンスの向こうには傾き始めた太陽。
その下にはグラウンドがあって、運動部が部活をしている様子が見えた。
野球部、サッカー部、陸上部…
みんな、青春してるなー。
「部活してる姿って、何か青春だね」
ふと、佐藤があたしが思ってた事と同じような言葉を口にして
それが可笑しくてちょっと笑うと、佐藤は「なに笑ってんの」って言いながら、自然な仕草であたしのおでこを軽く突いた。
「痛ー」
大して痛くもないくせに、大袈裟におでこをさする。
「痛くないでしょ。委員長おーげさ」
少し呆れた顔をして目を細める。よく見る表情。
ああ、よかった。いつもの佐藤だ。
あたしはほっとして、それと同時に何で自分は緊張してるんだろうかと首を捻った。
喋ったり笑ったり、それはいつもの彼なのに。何故か何処かに感じる違和感…
でもそれが何かなんで分からなくて、佐藤が言ってくれる筈もないから、どうする事も出来ない。