私と、はると、さくら。
はると、さくら。


はっと我に返る。

…寝てたのかな。
さっきのって…

「…夢?」


寝起き独特のかすれ気味の声が
暗闇に溶け込んでいく。


両手のひらを見つめた。

すっとした指。
面影はあるけど、
やっぱりいつものそれとは違う。

私はもう一度手のひらをじっと見つめて
ぎゅっと握りこんだ。


ドクンっ。

心臓が大きな音を立てる。


私はバッと立ち上がり
引き出しから手鏡を取り出した。

持ち上げかけたそれを胸の前で止め
固く、目を瞑った。
歯を食いしばりながら
鏡を顔の前に持っていく。


――ドクンっ、ドクンっ。


ココまで現実っぽかったのに
実はやっぱり夢だった、なんて
笑えない冗談だったら悲しい。



――ドクっドクっドクっ。

でも、自分の顔が
面影もなく変わってたら
どうしよう。



――ドクっドクっドクっドクっ!!


心臓がせわしなく動悸する。
それは、息を吸うことも
躊躇われるほどに。

手鏡を持つ手に力が入った。
それはかなり汗ばんでいた。

怖い。

…………それでも…


小さく深呼吸をした。
右目から、ゆっくり開けていく。

鏡に映る自分を見た瞬間。
私は目を見開いた。

一瞬、時が止まったのかと思った。
私自身、呼吸をすることさえをも
忘れていたんじゃないか。

溜まりきった息を細くはきだした。


まだ閉めてないカーテンから
満月が顔をのぞかせていた。

その光が優しく私を照らす。



「……違う。」

春じゃない。


「私は…」








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