まほうつかいといぬ



「すごかった、本当に。まあ、さっきの途中で終わっちゃったけど、がんばれば最後のまで弾けるように──」

頑張れば最後まで、か。青葉は項垂れる。

「the Art of Fugueって知ってる?」

死体のように指先が冷えた。

「未完のフーガ。バッハの曲だよ」

楽譜が未完に終わっている理由は諸説ある。
途中で音が途切れるのだ。それはもう、突然。思わず人々は目を見張る。そうして奏者を見つめる。何が起きたのか、分からなくなる。

「未完成なんだ」

なぜだか、いらいらとした。
“すごい人間”ではないんだと、子供のような彼に現実を伝えてやりたくなった。
サンタはこの世にいないんだって。
ヒーローは悪に負けるんだって。
きみの憧れているヒトは。

「未完で終わらせられてしまうなんて、まるで僕みたいだね。なにもかも中途半端で、親に言われたからって、夢だって捨てるつもりで。頑張ったって未完成。それ以上は望めない」


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