まほうつかいといぬ
久しぶりに訪れた校舎は廃統合によって、もう使用されていないらしかった。
知らなくてもよかった現実を前に、青葉は舌打ちを溢す。夢と希望に輝いていた時代まで廃棄された気分になって、暫く。ふとここに来た意味を思い出し、彼は裏庭へ向かった。
まだ残っているだろうか。
イヤホンを取り出して、アイポッドから曲を流す。the art of fugue、未完のフーガ。
準備は万端だ。
校舎の東面北側3つめの窓から十三歩に位置する一本の木を見つけ、青葉はスーツの袖を捲ってしゃがみこむと、土を堀り始める。
数分後、ようやく目的のものを掘り起こすことに成功した彼は一杯のぬるくなったコーヒーを飲みながら、土まみれのお菓子の缶容器を眺めていた。曲は未だイヤホンから流れ出ている。
「こんなにボロかったかなあ」
彼がいなくなる前日に二人で埋めたタイムカプセル。
ふふ、と笑って、青葉はコーヒー缶を地面に置いて、深呼吸。
そうして、地面に座り込んだまま缶容器の蓋に手を掛ける。