まほうつかいといぬ
開け易そうな箇所を探し、親指を引っかける。壊さない程度に指先に力を入れる。すると、高揚感の割にそれはあっけないほど簡単に開かれた。中には、くすんだ青色の。
ああ、と声がこぼれた。
噎せ返るほどの濃い思い出が鼻腔を擽る。苦しくなって、息が詰まる。
あの頃のように───空に見えたから。
箱の中に沈む、空に見えたから。
それは唐突だった。途中で音楽が途切れた。それはもう、突然。ぶつり、とイヤホンから流れていた音が消える。
青葉は息を飲んだ。予感がしたのだ。
「きこえるか」
ピアノを弾く手が止まる。思わず人々は目を見張る。そうして奏者を見つめる。何が起きたのか、分からなくなる。
「──なあ、あおば、きこえるか」
音楽室。埃の匂い。リフレイン。鬱血した日々。錆び付いた音が剥がれていく。
風が項を撫でた。海の水が、空へと落ちていく。肺の中が新鮮な空気で満たされて。
途中で音が途切れても、それでも。
青年は息を吸い込む。口を開いて、頬を紅潮させる。ゆっくりと振り返る。見上げて、彼は。