まほうつかいといぬ
数メートル先に立つのは一人の青年だった。そう、青年だけであった。
いつの間にかひしめき合っていた人々の影は消え、広々とした青色の視界が広がっている。
下敷きの向こう側、物音一つ失くした世界。交差点の真中で対峙するように青年と男は向かい合っている。
青年はぽつりと口を動かした。上手く聞き取ることができない。もどかしい。
混乱し、男は青年に何かを訪ねようと口を開く。しかし、驚いたことに、言葉は音でなく、泡となって宙に吐き出された。
瞠目して、男は泡沫を辿る。
鈍く点滅する信号機に繁茂する海藻。廃墟のように寝静まったビル群。眼前を横切る小魚に、降り注ぐ淡い光。海に沈んだ海中都市。
“ここは、海の中だから”
視線が上へ上へと昇っていく。頭上では光が水面に反射して揺れていた───視界は既に下敷きの枠を越えていたというのに。
愕然とした彼は無意識に声を溢す。
頭上に青が広がっていた。