まほうつかいといぬ
青。
頭上のそれが眩しくて目を細める。アイデンテティの確立が世間で騒がれているにしても、太陽は自己主張のし過ぎである。全く、どうしてこうも暑いのか。
窓から外を眺めているなんて、さながら囚人じゃないか。同じ行動をし、強要され、模範囚でいれば許される高校生活。
教室の中は監獄。
教師や親は監視官。
プールって空みたいだよな。空って青くて涼しそう。飛び込みたい。アイス食べたい。ああ、暑いと考えが溢れて纏まらない。あつい。うざい。みんなみんな死んでしまえ。
古びた教室。窓際の机。物騒なFワードを呟いて、着席していた青年は何気なく体育館横のプールに目を遣った。
人がいた。
プール掃除ならとっくに終わっていたはずだし、水泳部なんてこの高校には存在しない。不思議に思って、青年はその男子生徒の背中を眺める。
次の瞬間だった。
消えた、一瞬、そう錯覚した。
派手な飛沫があがる。彼が水の中に落ちたのだ。消えたのではなく、飛び込むように水の中へ落ちていった。もしかすると、足を踏み外したように、だったのかもしれない。意識を失うように、とも思われてくる。
遊びか?熱中症か?
水面に上がってくる気配はない。
青年は椅子から咄嗟に立ち上がる。
もしも気を失っていたら?
背後で椅子が倒れて大袈裟な音がしたと同時に彼は駆け出した。教室を出て階段を駆け下り、廊下を走って、プールのフェンスを飛び越える。
見渡すが、案の定、プールに落ちた青年は未だ浮かんできていない。
後先も考えず、彼は青に飛び込んだ。