とろける恋のヴィブラート
『あの時の僕はちょっとどうかしてたんだ……ごめん。奏を安易に傷つけた』


「……い、いえ」


『それと……』


 ぎこちない会話の中、柴野が電話の向こうで重くため息をついた。


『奏、こんな時に申し訳ないんだけど……今すぐに会社に戻って来れるかな?』


 柴野の重苦しい雰囲気に、奏はなにか嫌な予感を感じた。


『高梨がどうやら大ミスやらかしたみたいでね……ちょっと困ったことになってるんだよ』


 美香は、奏が一番信頼を置いている後輩だ。仕事も早く機転もよく利く、それだけにミスをしたという話はあまり聞かない。


「大ミスって……?」


『以前、奏が担当してた片山さんの結婚式の依頼のことなんだけど――』


 とにかく早く会社に戻ってきて欲しいとだけ言うと、柴野は慌ただしく電話を切った。
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