とろける恋のヴィブラート
※ ※ ※


「奏、高梨にあんなこと言ってたけど……大丈夫なのかな?」


 会社のエントランスを出ようとした時に、柴野がポツリと奏に言った。


「元々、あの片山さんの件は私の仕事でしたし……なんの根拠もないですけど、なんとかなるって……高梨さんに言ってあげたかったんです」


「まったく、君って人は……無鉄砲っていうか、でも……そこが奏のいいところでもあるんだろうけどね」


 外に出ると湿気を含んだ風がそよそよと吹いて、奏の髪をしっとりと撫でていった。そして柴野の大きな手が奏の頭をそっと撫でる。


「…………」


 奏は、柴野に応えることもなく、ただ撫でられるがまま無表情で一点を見つめていた。
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