とろける恋のヴィブラート
「や……だ」


 御堂が口づけた部分だけ焼け付くような熱を持ち、そしてビリビリとした痺れが腕を伝って心臓を刺激してくる。


「あんな、あんな男に泣かされるくらいなら……」


 指先を這っていた御堂の唇が奏の頬に移動し、耳元へたどり着く。


「……俺のところへ来い」


「っ――」


「そしてお前の中で眠ってるピアノの才能を、俺が叩き起してやる」


 頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。奏は目を見開いたまま、吸い込まれるような御堂の瞳を見つめた。


「もう一度、ピアニストとしてやる気はないか?」


「御堂さん……」


 ピアニストとしての奏の欲望が、篝火に小さく火を灯したように、その胸の中でゆらゆらと揺れ始めた――。
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