とろける恋のヴィブラート
「っ!?」


(や、やだ……こんな時に……思い出したくない)


 司会や御堂の挨拶の声が鼓膜の裏で聞こえる。まるで自分だけ水の中にいるような感覚だった。


(しっかりしなきゃ……!)


 自分で自分を無理に奮い立たせようろとするたびに、緊張で身体が痺れを増す。


 ――大勢の人の目が見ている。


 ――自分のピアノを聴いている。


 ――失敗したくない。


 そんな恐怖にも似た不安がぐるぐると奏を取り巻いていく。



(やだ……やだ……やだ!)


 その時――。


 奏が視線を感じて見ると、じっと横目に自分を見ている御堂と目が合った。
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