とろける恋のヴィブラート
 ※ ※ ※

 マリングランドホテルは、会社から電車で三十分ほどの場所にある。東京湾を見渡せるローケーションのいい場所として、巷では人気のあるホテルだ。


(もっといい恰好してくればよかった……)


 エントランスに入って、奏はその豪華な内装と自分の服装が比例していないことに気まずさを覚えた。けれど、鏡のような大理石の床に煌びやかなシャンデリア、ロビー中央に置かれた室内噴水にうっとりとしていると、そんな小っ恥ずかしさも吹き飛んでしまった。


「青山さんですか?」


「へ?」


 非現実的な光景にすっかり魅入ってしまっていた奏は、不意に声をかけられてまぬけな声を出して振り返った。
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