とろける恋のヴィブラート
(あ……あれって……もしかして!)


 ホール中央に配置されたグランドピアノに目が留まると、奏は小走りに走り寄った。


 ワックスで丁寧に磨き艶出しされた鍵盤は指紋ひとつなく、黒光りしている屋根の部分には、鏡のように映し出された自分の姿がくっきりと見える。


「これって世界三大ピアノメーカーの……」


「そうなんですよー、わかります? 希少価値が高いだけあって、プロの方にもいい音が出るって評判なんです。もう今では作れない音だって言われていて――」

 説明されずともそのピアノの希少価値は知っている。担当者の饒舌なうんちくもそっちのけで、奏はそのピアノに魅入った。
 

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