とろける恋のヴィブラート
「ん?」


「ど、どうかされましたか?」


「シッ!」


 御堂は手入れの手を止めて唇に人差し指をあてると、神経を聴覚に集中させた。


「ピアノ……?」


 どこからともなく聞こえてくるピアノの音色に、御堂は一点を見つめながら身動き一つせず目を閉じた。


「誰かあのホールのピアノを使っているのか?」


「あぁ、先程ベルンフリート事務所の方が来て、ピアノの調律をお願いしているんです」


「ベルンフリートの?」


「パーティー当日のピアニストの方ではないのですが、青山さんっていう……あっ、御堂さん!? まだ打ち合わせの途中なんですけど……」


 御堂はそのままソファから立ち上がると、何も言わずに部屋を出ていこうとした。
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