瞳の中の碧い海


「でもさぁ、
  翼も変な名前だよな。
   男の名前みたい」


「ウチのパパがね
 私が生まれた時に
 天使が生まれてきたって。
 
 でも翼がないから
 翼をつけてあげようって
    付けたんだって」


「へぇ、愛されてるんだねぇ」


「愛されてなんかなかったわ…
 
 パパは10歳のとき
 他所の女に子供が出来て
 出て行っちゃったから。
 
 それっきり一度も
 会いに来てくれなかった」


「翼パパは
 モテ男だったんだな」


「そう言った人は初めてだわ」


「愛してるから
  もう会えないと
   思ったんじゃないの」


「どうして…?」


「中途半端に会っても
  傷つけるだけでしょ」



胸の奥が
ズキズキと痛みだす。


棗に言われていると
パパにそう言われているような
気がする。


そんなつもりはなかったけれど
涙が出てきてしまった。



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