瞳の中の碧い海
「連れてる女はいまいちね」
なんて
悲しい声まで聞こえてくる。
棗本人はそんなの
お構いなしといった様子だ。
彼は自分が他人より
美しいことくらい
充分心得ている。
「初めて来たけど
思ったよりいいね?」
私の方を見て笑う
その顔の方が夜景なんかより
ずっと眩しかった。
「あれがテレビ塔かな?」
棗が遠くを指差して言う。
「したっけ(そうしたら)
あの辺が札駅だね」
「『したっけ』って
変な言葉」
「やっぱり棗は
北海道の人じゃ
ないんだね?」
「そうだね」
「どこから来たの?」
「…どこでもいいじゃん」
彼に嫌われたくないので
これ以上詮索しない方が
よさそうだなと思った。
言えない事が
沢山あるのかな。