瞳の中の碧い海


「翼があの子を好きなのは
 パパに似てるからなのね」


棗がくれた
紅いバラを眺めながら
ママはこう言った。



「そうなの?」


「パパは誕生日にいつも
 花束をくれたじゃない」


「そういえば…そうだったわ」



それは自分でもなんとなく
そうかなと思っていた。


「棗が
 カウンターの端に
 座っていた人が
 ママの彼氏だって
    言ってたよ」


「はぁ、たいしたもんだわ」


「やっぱりそうなんだ!」


「こっちだってプロよ?
 店に男が来てるなんて
 絶対分からないように
 やってるのに!

 気付くんだから
 たいしたものよ。

 仕事でもないのに
 そんなに神経張ってて
   疲れないのかしら」


「そんなに人間関係に気を遣う
   タイプじゃないけど…」


「彼は周りの人がどんな人間か
 よく見てるわよ?
    同業者かと思ったわ」


「ホストって言われてたのは
  見た目じゃなかったの?」


「見た目もだけど…
 自分に何を求められているか
   常に計算してる感じが」


「そういえば
 ママ好みのスーツは
 どれかなって悩んでたわ」


「ディオール・オムに
 紅いバラ…
 見事にストライクね。
 悔しいわ…あんな子供に!」



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