瞳の中の碧い海
「そんな事言われても
困ります…」
「あっそ。じゃあ
今から帰って飲み会に
行った方が無難だな」
繋いでいた手を離されて
棗は胸ポケットから
青緑の箱の煙草を取り出して
火を点けた。
煙草の箱の青緑色は
今目の前に拡がる
海の色にとても良く似ている。
この瞬間から
この色は
私の中で彼の色になった。
潮風が彼の吐く煙をさらって
彼の前髪を揺らす。
繋いだ手を離されたことと
彼の美しい瞳が
もう私の方を
見てくれなくなったことが
少しだけ寂しかった。