ブラックレター~高嶺の花に恋します~
私一人なら何も食べなくても構わないのだが、絢子がいるとそうはいかない。
彼女は食生活に関して母親並みに厳しいのだ。
しかし今日ばかりはそうもいっていられなかった。
この手紙の衝撃のせいでちゃんとしたご飯を作っている余裕などなかったのだ。
むしろとりあえずおにぎりだけでもと握ることが出来た自分が凄いと思う。
さすがの絢子も今回ばかりは何も言わなかった。
たぶん絢子も動揺しているのだと思う。
彼女がくるくると髪を指で弄っているのがその証拠だ。
あれは絢子が落ち着かないときの小さな癖。
ちなみに手紙はそこに置かれて以降、誰の手も触れていない。
もちろんおにぎりにも触れていない。
どちらも静かにそこに鎮座している。