ブラックレター~高嶺の花に恋します~
(わかってたら苦労しないよ)
どこが好きか、なんて。
そもそも初めから理由なんてなかったのだから。
あの日、好きになったあの瞬間。
それは私にとって特別であり、とても自然な出来事だったのだ。
どこがとか、何がとか。
そういうありふれたことではなかったのだから。
ただあの人という色が私の世界に飛び込んできた。
ただ、それだけの話。
この人がいいとただそう思った。
それだけの話だった。
そんなことを考えていたら、ふと思った。
(…もしかして)
それでいいのではないかと。
「…正直に、書くよ」
「正直に?」
「うん」
嘘偽りなく。それしか私には出来ない。
そう思いながら私はしまってあったレターセットを取り出し、ペンを握る。
思い出すのは一年前のあの日のこと。