紅 き 瞳
俺は今日も、夜の町を散歩する。
今日は誰にしようか……、そんな事を思いながら、町をブラブラしていると
いつか血を吸った女に会った。
それまで無表情だった俺は、即座に表の顔をした。
「あの……すみません。何処かでお会いしましたか?」
「――いぇ。人違いだと……」
女は考え込んでいるようだが、記憶に無いらしい。
あの夜の記憶、は完全に消えているようだ。
「そうですか……、すみませんでした」
―――俺には、表の顔と裏の顔がある。
表の顔では、キャバクラの黒服。
そして、裏の顔が吸血鬼…つまりバンパイアだ。
表の顔の俺も、裏の顔の俺も同一人物なのだが、明らかに周りを取り巻くオーラが違うらしい。
表の顔の俺は、黒服ならではの誠実さや、凛とした態度…そして優しい印象らしい。
しかし、裏の顔の俺は何処か冷たいオーラがあるんだとか。
常に裏の顔でいる方が楽なのだが、裏の顔でいるとなかなか女が近付いて来ない。
だから、俺は俺と話す時は表の顔になる。
まぁ、例外はあるが……。