紅 き 瞳
「リョ〜〜〜〜!!」
闇夜を切り裂くような女の声。
それは、頭上から聞こえてきていた。
何かと思い、上を見上げると大きな黒い翼が目に入る。
……噂をすれば。
俺たちバンパイアは人間に、本当の姿を見られてはいけないという掟がある。
だがこいつは、本当にわかってないんだ。
「やめろ、マノン。人間に見られたらどうなるかぐらい、お前にも分かるだろ?」
「……だって、リョウに会いたかったんだもん」
“会いたかったんだもん”
じゃねぇーよ。
まったく…………。
こいつ、マノンは俺と同じバンパイアだ。
俺と同い年で、属にいう幼馴染みってやつだな。
マノンとは、俺が魔界を出ていった時以来会っていなかった。
「ねぇリョー……、今日はもうシタ?」
あ゛?あぁ……血を吸ったかどうか聞いてんのか。
覗き込んできた瞬間、マノンの薔薇の香りが鼻をかすめた。
「まだ…。マノンが邪魔するから女が離れて行った」
さっき、俺が目を付けていた女は“あーあ。彼女居るんだぁー”
なんて言いながら、どこかに行ってしまった。
「ねぇ……、久しぶりにヤらない?」
「……あぁ」
俺と紅は恋人同士ではないが、体の関係は……ある。
マノンには、形だけの婚約者がいるし、俺もマノンのことがどうこうとかじゃない。
ただ、お互いの欲のために体を重ねてるだけだ。
満足げに笑うマノンは、俺の指に指を絡ませると
ホテル街へと姿を消した。