紅 き 瞳
前から歩いて来るのは、スーツを着て疲れた顔をした仕事帰りと思われる女の姿……。
暗闇に屈する事にない瞳は、その姿をはっきりと捉える事が出来る。
女は、茶色の長い髪をなびかせながら、ゆっくりと歩いていた。
夜道が怖いのか 少しビクビクしている様子だ。
悪いが、コレも俺が生きるためなんだ。
バンパイアは神なんか信じないが、この時ばかりは神に祈るような行為をしてしまう。
それは、俺だけの儀式……みたいなものだ。
一般的に、バンパイアは「水」「太陽の光」「十字架」「にんにく」「銀」などのものを苦手とする…といわれている。
だが、それはほとんど事実ではない。
水と十字架は、ただ単に体力を奪うだけ。
にんにくは、よく利く鼻には辛いだけ。
太陽の光に当たっても、灰になったりはしない。
第一、その時間帯はバンパイアにとっての「夜」になるため、皆眠っているのだ。
最後に…銀。
銀の武器で傷つけられると、バンパイアは傷つく。
バンパイアは、攻撃に強い生き物だから普通の武器では傷つかないんだ。
そんな……バンパイアは、血を欲する醜い生き物。
俺は今から、恐ろしい獣になる………。