紅 き 瞳
「お待ちしておりました」
彫刻を施されたドアの前には、黒服に身を包んだカルロが出迎えていた。
「カルロ、出迎えはいいと言った筈だが」
「申し訳ございません」
「まぁいい、……もう始まっているようだな」
建物の中から微かに聞こえるワルツの音に、嫌気がさす。
「金持ち共が集まってんのか」
「ナイト様……、いつ何処で聞かれるかわかりませんので」
「わかっている」
常に周りを警戒しておかなければならないなんで、物騒な世の中になったものだ。
「ナイト様、薔薇は……」
「あぁ、忘れてきたようだ」
「では、この代わりの薔薇を……」
カルロの手の上で煌びやかに光るそれは、己の命とも等しいもの。
胸ポケットにさすと、光は一層強くなった。
さて、パーティーの始まりだ。
開け放った扉の向こうには、偽りの世界が広がっていた。