あなたが好きで…
11


人を好きになるということは、素晴らしいことだ。
だなんて手放しで言うつもりはない。
もちろん、その人の事を想う時は幸せで、切なくて、楽しい事だ。
未来に想いを馳せて、自分を投影する。
告白して、付き合って、結婚して、子供ができて、家族が幸せに暮らす。
そんな未来を思い描くことに、罪はない。
しかし、楽しいことばかりでは無いこともまた、事実だ。
辛いことも、楽しいことと同じくらいあることもまた、事実だ。
だけど、それでも、だからこそ、その一瞬には価値があり、永遠になる。
人を好きになるだけで、幸せになれて、辛くなれる。
辛くなった分、幸せになれる。
その逆もまたある。
それはとても特別な事だ。
澪には、幸せになって欲しい。
それが、1番の願い。

「気になるんでしょ?その人の事」
「そんなこと……」

澪が続きを口にすることは無かった。
言葉を飲み込んで、心を守った。
気持ち……と言ってもいい。
1度言葉にしてしまうと、それは少なからず影響を及ぼす。
たとえそれが本心で無かったとしても、周りが聞き、そう判断する。
自分の心にも、深く刻み込まれてしまう。
それはなかなか抜けないトゲのように、いつまでも自己主張をして、次第に自分が本当にそう思っているかのように、思い込んでしまう。
逃げてしまう。

「その人の事、どう思ってるの?」
「……わからない」
「そっか……」
「でも、もう一度会ってみたい」

澪の抱いているものは、恋愛感情と言うにはあまりに幼い。
多分、本人も気づいては居ないだろう。
澪が抱いている感情の根幹。
その根元。
一番深いところに撒かれた、小さな種。
その正体に、澪はきっとまだ気づいていない。
でも、あたしはそれに気づいてしまった。
澪は迷惑に思うだろうか?
それでもいい。
お節介だろうか?
それでもいい。
もし嫌われてしまっても、絶交だと言われてしまっても、それでもいいと思う。
澪が幸せになれるのなら、力を貸したい。
澪が自分にしてくれた事を考えると、それでも足りないくらいだ。
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