あなたが好きで…
5
2-Bの教室は、校舎二階の中ほどにあった。
玄関を入って、そばの階段を上がると、そのすぐ横にある。遅刻しにくい立地で、澪は少し気に入っていた。
教室の扉を開ける。教室内の人はまばらで、みんないくつかのグループに分かれて、束の間の談笑を楽しんでいた。

あ……。

澪の机の周りに、5人ほどの女子のグループが固まっていた。座りたいけど、座れない。その中に入って行くほど、澪に勇気はなかった。

「あ……あの……」

一応、存在をアピールしてみる。が、それはあまり意味のない行動だったようだ。女子達はおしゃべりに花が咲き、澪の存在に気付く様子はない。
はぁ……と、澪は小さくため息をついた。

仕方が無い、チャイムが鳴るまで、暫く待つか。

澪がそう思った時……。

「あんたら、澪が座れないじゃん。どきなよ」

澪の後ろから声がした。
その場の全員が、一斉に澪の後ろに視線を向ける。それは澪も例外ではない。
そこにいたのは……。

「茜……」

上月茜だった。
中学からいつも気の弱い澪を助けてくれる、澪の親友。
彼女は鞄を担ぐようにして持ちながら、まっすぐ女子たちに目線を配っていた。

「ごめんね、新井さん」

彼女たちは、そう言うと澪の机を解放して、少し離れたところでまた話の続きをはじめた。
悪い人たちではないのだ。だから、澪はほんの少し、強くいうことができなかった。

「おはよう、茜。ありがとう」

澪は茜に向き合って言った。自然と笑顔が零れた。当の茜は、少し照れ臭そうに、前髪をいじっていた。

「澪、あんた言うべき時は言わないと。今はいいけど、いつか後悔するよ?」

茜は左手首のシュシュを少し撫でた。

「うん、わかってはいるんだけどね……」

私はきっと、困った顔をしている事だろう。茜は一つ大きなため息をついて、澪の頭に手を乗せた。

「ま、困ったらあたしに言いな?何でも相談に乗るからさ」

小柄な男子くらいある茜は、よく澪の頭を撫でる。澪は、そういう茜の優しいところが大好きだった。

「うん!ありがと」

自然に出る笑顔。
澪が澪らしさを見せる相手は、茜だけだった。
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