あなたが好きで…
6
HRの鐘が鳴った。
先ほどまでのざわつきは少しずつなりを潜め、また男子達が慌てて教室に入ってくる。
あ……。
洋介が、教室に入ってきた。さきほどまでの道着姿ではもちろんなく、制服に身を包んだ彼が一直線にこちらに向かってきた。
彼と、一瞬目があった気がする。
彼が、私に少し笑いかけた気がする。
彼が、このまま私に話しかけてくれる気が……。
洋介は澪から目線を外し、澪の隣の席に腰掛けた。
もう、澪を見てはいなかった。
そうだよね。ただの隣の席だもん、私と目くらいあうよね……。
澪は、恥ずかしくて死んでしまいたくなった。
最後の生徒が教室に入って少し経つと、前のドアが軽い音を立てて開いた。
「みんなおはよう」
そう言って、お腹が大きい女性教師が、のそのそと入ってきた。臨月を迎えているらしい彼女は、大事そうにお腹に手を当てている。
「起立。礼。着席」
日直の号令で、朝の挨拶が終わる。
「はい、おはよう。今日は皆さんにお話があります。実は皆さんと一緒にいられるのは今月までとなりました」
女子はえー!と歓声を上げて、男子はさして興味もなさそうに話を聞いていた。
「来月、出産予定日で入院するためです。今年度も始まったばかりなのに、みんなには迷惑をかけてごめんなさいね」
女子が色めきだった。
女性として、愛する人との子供が生まれるというのは、最高に幸せな事だと澪も知っていた。
澪は周りに視線を配る。女子達はみんな口々に「男の子ですか?女の子ですか?」とか「名前は決まってるんですか?」とか囃し立てていた。
男子は取り立てて興味はないらしいが、お調子者の何人かは「お祝いしなきゃ!授業なんかやってらんねー!」と調子のいい事を言っている。
ふと気になって、隣の洋介を見る。彼は机に頬杖をつきながら、喧騒を静かに聞いていた。
相変わらず、何を考えているのかは分からない。
横顔は憂鬱そうに、澪の姿を透視するように外を見つめていた。
視線をずらすと、少し離れたところに茜の後姿も見えた。茜は先生の姿を見ず、左手首のシュシュを見つめていた。
「はいはい!静かに。気持ちは嬉しいけど、まだまだ日にちはあるんだから、みんな気が早い」
先生は呆れたように言うと、そのままHRを開始した。
HRの鐘が鳴った。
先ほどまでのざわつきは少しずつなりを潜め、また男子達が慌てて教室に入ってくる。
あ……。
洋介が、教室に入ってきた。さきほどまでの道着姿ではもちろんなく、制服に身を包んだ彼が一直線にこちらに向かってきた。
彼と、一瞬目があった気がする。
彼が、私に少し笑いかけた気がする。
彼が、このまま私に話しかけてくれる気が……。
洋介は澪から目線を外し、澪の隣の席に腰掛けた。
もう、澪を見てはいなかった。
そうだよね。ただの隣の席だもん、私と目くらいあうよね……。
澪は、恥ずかしくて死んでしまいたくなった。
最後の生徒が教室に入って少し経つと、前のドアが軽い音を立てて開いた。
「みんなおはよう」
そう言って、お腹が大きい女性教師が、のそのそと入ってきた。臨月を迎えているらしい彼女は、大事そうにお腹に手を当てている。
「起立。礼。着席」
日直の号令で、朝の挨拶が終わる。
「はい、おはよう。今日は皆さんにお話があります。実は皆さんと一緒にいられるのは今月までとなりました」
女子はえー!と歓声を上げて、男子はさして興味もなさそうに話を聞いていた。
「来月、出産予定日で入院するためです。今年度も始まったばかりなのに、みんなには迷惑をかけてごめんなさいね」
女子が色めきだった。
女性として、愛する人との子供が生まれるというのは、最高に幸せな事だと澪も知っていた。
澪は周りに視線を配る。女子達はみんな口々に「男の子ですか?女の子ですか?」とか「名前は決まってるんですか?」とか囃し立てていた。
男子は取り立てて興味はないらしいが、お調子者の何人かは「お祝いしなきゃ!授業なんかやってらんねー!」と調子のいい事を言っている。
ふと気になって、隣の洋介を見る。彼は机に頬杖をつきながら、喧騒を静かに聞いていた。
相変わらず、何を考えているのかは分からない。
横顔は憂鬱そうに、澪の姿を透視するように外を見つめていた。
視線をずらすと、少し離れたところに茜の後姿も見えた。茜は先生の姿を見ず、左手首のシュシュを見つめていた。
「はいはい!静かに。気持ちは嬉しいけど、まだまだ日にちはあるんだから、みんな気が早い」
先生は呆れたように言うと、そのままHRを開始した。