オオカミが来た!
ふいに視界に飛び込んだ貴一の手が、私の頬に触れた。驚いたけど、飛び退く間も無く。
「驚いてみせたのが、俺の嘘」
頬を包み込んだ手に促されて、顔が貴一の方へと向けられる。真正面に、貴一の顔を捉えた。
「貴一も、嘘?」
「素直になれよ、告ったのが嘘って言ったのが、本当の嘘なんだろ?」
貴一の顔が近づいてくる。
どくんと胸の奥で大きな音がした。 驚いて目を閉じた瞬間、唇にやわらかな感触。温かさを感じる間もなく、離れていく。
そっと目を開けたら、貴一がにこりと笑った。頬から離れた手が、私の背中に回される。
『好き』って言ったのが嘘だなんて嘘。
「俺も、美咲が好き。もう嘘はつけない」
答えられないでいると、貴一が抱き寄せてくれた。ぎゅうっと腕に力を込めてくれる耳元で、ぽそっと呟いた。
「好き、が本当だよ」
ー 完 ー