誘惑上等!

「俺なんて馬鹿なんだから、理沙ちゃんからいつもと違うすげーいい匂いがするなってだけで『もしかして俺誘われてる?!』とか勝手に妄想して盛り上がっちゃうんだからさ。理沙ちゃん全然そんなつもりないだろうけど、無防備にこんな『食いついてください』みたいないい匂いさせてんなよ」


布団の中で理沙がなにか呟いた。どうやら「馬鹿」と言ったようだった。


「そーそ、男って理沙ちゃんが思うよりはるかに馬鹿な生き物なんだよ。しかも俺なんて超スケベなんだからさ。取って食われないようにほんと気をつけろよ?……そりゃまあ、いずれ理沙ちゃんとそういうこと出来たらいいなと思ってるけどさ」

「……“いずれ”っていつよ」


なぜかいじけたような言い方をする理沙に意味もなく胸がきゅんとして、彼女に隠していたことをつい白状した。


「来月まで黙ってようと思ったんだけど。ボールドウィンホテル、予約取ってあんだ」
「……ボールドウィンホテル……?」


そう、と頷くと理沙が呆然とした顔で布団から顔を出す。


「それってまさか、赤坂にあるボールドウィン?」


理沙は信じられないという顔で外資系のそのホテルの名前を繰り返す。


そこは一番ランク下の客室でさえ、シーズンオフでも一泊3万5千円もするという星付きの高級ホテルだ。ラグジュアリーな客室はもちろん、最高のホスピタリティを自負するホテルマンたちの行き届いた接客も、セレブや著名人たちから支持を集めている、庶民には憧れの世界屈指のハイクラスホテルだ。



「朝食付きのプランで予約しといた。理沙ちゃん、来月誕生日じゃん。『世界一おいしいっていうボールドウィンホテルの朝食、一度でいいから食べてみたいな』って前に言ってたから」

「だからって……」


理沙は言葉を詰まらせる。


サプライズで驚かせるつもりだったのに、こんなタイミングで明かしてしまって失敗だったな、と困惑したような顔をする理沙を見て反省する。きっと理沙と同じ世慣れた社会人男なら、もっとスマートに彼女にホテルの宿泊をプレゼントできるのだろう。


そう思うと、5歳という年齢差が悔しい。



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