誘惑上等!
「……理沙ちゃん、気が乗らない?」
「だって」
理沙は何かを言いかける途中ではっと目を見張る。
「もしかして最近バイト増やしたのってそのため?……悠馬に聞いたよ。最近サークルにも全然顔出さないでバイトばかりって」
ただの大学生なんてなんのステイタスもなければ、どんなにバイトにいそしんでみたところで社会人の経済力には敵わない。
働いている理沙から見たら、まだ親の脛を齧って生きている自分なんて、付き合ってもなんのうまみもない相手なんだろうといつも焦りを感じていた。
だから理沙が他の社会人男になんて目移りしないように、めいいっぱいのバイトと節約で貯金して学生の自分でも理沙の望みを叶えてやれるんだというところをアピールするつもりだったのに。
はじめてのお泊りがボールドウィンホテルというのは、ちょっと背伸びをし過ぎたようで、理沙には余計な心配を掛けてしまったようだ。
「いいんだよ。俺の好きでしてることだし」
理沙が物言いたげな顔をするから、理沙が口を開く前に畳み掛けるように口説いていた。
「その日さ、一緒に泊まって朝までずっと理沙ちゃんといたいんだけど。……つまりさ、理沙ちゃん、そういう意味で俺のものになってくれないかなって」
エッチをしたいということも、もっとスマートにアピールするつもりだったのに。中途半端な誘い方になってしまった。理沙は難しい顔をする。
「……ねえ」
「ん?」
「……もしかして、わたしとそれまでしないつもりとか……?」
「あー。だってさ、女の子にとって『初めて』って特別なんだろ?」
だからとっておきの『初めて』を理沙にプレゼントしようと思っていた。
夜景の見えるロマンチックな高級ホテルで甘いひとときを過ごせれば、きっと一生のうちに何度も思い出してもらってしあわせな気持ちになってもらえるだろう。そんな経験を共有できたら最高なはずだ。
ちゃんと『初めて』に相応しい場所を用意した旨を伝えると、理沙はなぜか微妙に顔をひきつらせる。
「なにそれ……それじゃわたし、今まで夢見すぎた所為で処女こじらせてたひとみたいじゃん」
若干引いているような理沙を見て思わず「喜んでくれないの」と訊いたら、「重いわっ」と叱られてしまう。いや、叱っているというより困惑しているようだ。