誘惑上等!
「大悟は。……大悟はわたしに夢見すぎだよ。……こんな歳になると、そんなおおげさなことにしないで、さっさといつの間にか終わってました、みたいにさらっと済ませたいと思ってるんだから」
女の子はみんなロマンチックなことが大好きだと思っていたから、理沙の反応は予想外で、大悟の方も困惑してしまう。
「でもさ。……ボールドウィンだぜ?理沙ちゃん憧れの」
「……ハードル高すぎるよ。そんなすごいシチュエーション用意してもらっても、わたしなんかじゃ似合わないよ」
それに、といっそう小声になった理沙は俯きながら言う。
「大悟がそこまでしてくれてその日に『しよう』って決めてても、うまく出来ないかもしれないし。わたし運動神経悪いし、要領も悪いから、絶対下手だと思うよ?それに。……それにわたしの体見て、がっかりさせるだけになるかもしれないのに」
どうやら理沙は自分の容姿にコンプレックスがあるようだけど、処女であることもコンプレックスなようだ。今は処女を失くすことより、処女のままでいることに不安があるらしい。
経験がないことを引け目に感じる必要なんてないのに。
ただ自分が気持ちよくなるためだけに理沙を誘いたいわけじゃないのだから、「下手かもしれない」だなんて気に病むこともないのに。
馬鹿だな、と思う。
理沙のことを自分がどんなに大事にしたいと思っているのか、彼女は全然分かっていないようだ。
「がっかりなんてしねぇよ、絶対」
「なんでそんなことが言えるのよ。だいたい今ふたりっきりでベッドの上って状況でも大悟全然ムラムラしてないくせに」
本当にわたしでその気になれるの?と、理沙は見上げるように睨んでくる。
なんでそんなことを訊いたりするんだろう。答えなんて決まってるのに。理沙ちゃんって思ったよりほんと馬鹿なんだな、とすこしだけ憎らしく思う。
「なれるよ」
当たり前だろうといわんばかりに憮然と答えると。
「だったら今、大悟の好きにしていいよ」
理沙がなけなしの理性を吹っ飛ばすようなことを言って来る。