誘惑上等！

「何？この前見てたバイクとか？」
「……まあ。バイクは欲しいよな……」


買えるものなら買いたいと思う。400cc以上で、二人乗りできるヤツが。カノジョを自分の背中にしがみ付かせて、気持ちのいい春先に体を密着させたまま二人で海までのんびりツーリングデートが出来たら最高だと思う。でも大悟には今そのバイク以上に欲しいものがあった。


あまりにも欲しすぎて、近頃は顔を合わせるたびに悶々として、夜中にひとりベッドの中でのたうちまわってしまうくらい欲しいものが。

だから学生たちの間で「ビンボー飯」と陰で言われている、学食で最低価格の素うどんなんかを毎日のように食べていた。


「ん？やっぱおまえバイク本気で買うことにしたんか？やっぱさぁ、ホンダの単車はサイコーだよな。俺はカワサキも好きだけど。でも俺らにはバイクなんて高すぎだよなあ」


言葉をいったん切った後、ひもじい大悟の前で山田はまた豪快にフライにかぶりついた。

大悟たちの大学の学食で出されているメニューは、都内の学食ランキングでも毎年底辺に格付けをされている、他の私大のそれに比べると味も盛り付けもかなりお粗末な代物だ。

けれどうどん一杯程度では到底空腹が満たされることがない大悟には、その「まずい」という悪評のある定食でさえひどくおいしそうに見える。



……俺、もうすこし、揚げ玉たくさん入れておきゃよかった。



セルフサービスでトッピングできる薬味と揚げ玉をこれでもかとうどんの丼に山盛りに盛ったけれど、健康で若い大悟の胃袋はそんなものでは誤魔化されないぞとばかりにきゅうきゅう切ない音を立てていた。



--------さすがにまじ腹減ったな。もう一品頼んじまうかな。一個110円のおにぎりくらいなら……。