誘惑上等!
なんの匂いとははっきりと説明できない、花や果物の匂いが入り混じり複雑に重なり合った豊かでやさしい女の子らしい匂いで、理沙の隣に座ったとき、彼女に触れて抱き合ったとき、そしてすべてを終えた今、とそのときどきで理沙の体臭と混ざり合って印象を返る、移ろう香りだ。
すごくいい匂いなのに捉えどころがなくて、だから余計に手中に収めておきたい、傍においておきたいと駆り立てられる。
なんだか理沙自身とイメージが重なった。
擦れたオトナのようでいて、まだ幼さを残した一面もある。大胆に男心をくすぐってくるかと思えば、こちらがうろたえるほど初な一面を見せてくる。
そうやって男である自分を翻弄してくるところが、まさにこの甘い匂いと同じ印象そのものだ。
「ちょっと、舐めないでよっ」
「あ。悪い、ついうまそうで。俺今まで柑橘系が好きだったから、甘いの苦手だと思ってたけど。この甘いのはすげいい」
「……あっそ。でも二度と使わないから」
取り付く島もなく、ぴしゃりと理沙は言い放った。
つれなさすぎる。
カレシのリクエストで、しかも今は初めて結ばれた後という、最高にいちゃいちゃな雰囲気になるタイミングだというのに。てっきり「大悟と会うときはいつもこの匂いにするね」とか、甘い雰囲気になるものだと、それが当然くらいに思ってたのに。
「え。なんで……?この匂い、めっちゃ理沙ちゃんに似合ってたのに、」
ああ、でも他の男の前でこんないいにおいされたくないな、と警戒する。でもまたこのいい匂いさせた理沙の体を隅々まで辿って触れていくことを夢想しているとうきうきしてくる。他の男の前じゃ絶対許さないけど、自分の前でだけは是非とも今後も愛用してもらいたかった。
「マジ理沙ちゃんに合ってるんだってば。頼みますから、ね?」
「……お断りします。これのお陰で男怖いって思い知ったし」
ほんと怖すぎだから、と言われてさあっと血の気が引いていく。
嫌がる素振りを見せながらも理沙もノッてくれていたように見えたから意地悪しまくったけれど。理沙は心底「こりごり」みたいな顔をしてぐったりと枕に顔を埋めてしまう。
「え、俺怖かった……?」
「……あたりまえでしょっ。普段へたれ馬鹿なくせに」
理沙が睨んでくる。
もしかしたら愉しんでいたのは自分だけで、泣かされまくった彼女にとっては「最悪」な初体験だったのかもしれない。
がばっと起き上がると、プライドも何もなくその場で土下座した。