誘惑上等!
「ごめん、すみません、まじ調子に乗りました、悪気はありませんでした……!」
ベッドの上でパンツも穿かないまま全裸での平謝りだった。
「……よく言うよ」
「ごめんって!そんな冷たく言うなよ」
理沙は呆れているような冷え切ったまなざしを送ってくる。そのあまりの冷たさにはっと息を飲んだ。
「ま、まさか……。理沙ちゃん、俺と別れたくなった?」
理沙は口をへの字にして何も言わずに背を向けてしまう。
「マジですみませんでした!だから別れるなんて言うなよ、なあ理沙ちゃんってば。ごめんって、大好きだからさ、もう理沙ちゃんの嫌がることしないよ、多分っ!しないと思うから、努力しますから!」
そこから平身低頭で謝り倒して無様を承知で「別れないで」と拝み倒した。理沙はむずがるような顔をする。
「なにその超下手。……大悟、豹変しすぎで怖いっての……」
それから大悟に聞こえないくらいの小声で、「……エッチのときすごい俺様ですごいどきっとしたのに」と零した。
「うあ。やっぱボールドウィンまで我慢しとけばよかった…!」
勢いでがっつきすぎたと悔いると、理沙がぼそっと呟いた。
「べつに超リッチなホテルなんかじゃなくても、いろんな意味で忘れられない初体験だよ」
わずかに赤くなった耳。いつもの照れ隠しのような素っ気無い言い方。
「……それって。俺とのエッチ、悪くなかったってこと………!?」
勢い込んで訊くと頭をおもいっきり引っ叩かれた。
「……バカっ」
そういって怒った顔をする理沙が、やっぱり大悟にはたまらなくかわいくて。もうどうしようもないくらいかわいくて。
にやにや笑いながらその日は「ごめん」と謝り続けた。
《end》
※読了ありがとうございます。
『誘惑上等!』は(これ単独でも読めるように書いたつもりですが)、以前書いた『あいつが好きな、私の匂い』という短編の、その後の話になります。
もし理沙と大悟のなれそめに興味を持っていただけましたら、前作もお読みいただけたらうれしいです。