誘惑上等!
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現在大学3年生の大悟が、OLの理沙と出会ったのは大学一年の春。
仲良くなった悠馬が一人暮らしをしているという実姉のアパートに遊びに行くと言ったので、その日バイトも非番で暇を持て余していた大悟も、一緒について行った。
理沙は弟と弟の友達と言う赤の他人の突然の訪問に驚き、迷惑そうな顔を見せたけれど、ふたりがお腹が空いたというと文句を言いつつもチャーハンを作ってくれた。
大悟が小学生のとき一番上の兄が作ってくれたそれはべちゃっとしていてお世辞にもおいしいものではなかったけれど、理沙がつくってくれたレタス入りのチャーハンはシャキシャキした歯ごたえがあって、絡められた卵は刻んでいれられたウィンナーの塩気を引き立てるようにバランスよく甘めの味付けがされていて、ごはんはちゃんとぱらぱらしていて絶品だった。
このときはまだ、「料理上手なおねーさん」という印象だけ。
でも悠馬が理沙のアパートに行くと言った日は必ず一緒についていって、出されたものは悠馬と奪い合うようにして平らげた。
そうして何度も通ううちに理沙のアパートを訪ねるのをたのしみにしている自分に気付いた。
--------今日は何を食べさせてくれるんだろう。
悠馬に「今日のバイトの後、ねえちゃんとこ行く」と言われると、そわそわしてその日の講義が手につかなくなった。理沙のおいしい手料理が楽しみすぎてそうなるんだと思っていた。
このときもまだ自覚なんてしていなかった。
その頃、入学当初に告ってきてくれて、そこそこ上手くいっていると思っていたカノジョに突然振られた。「大悟、あたしと付き合ってる意味ってあるの?」そういって別れを宣言されたときは、突然のことすぎて何が何だか分からなかった。
今にして思えば、大悟が気付きもしなかった自分の気持ちに、カノジョだった美咲は先に気付いていたのだろう。
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