お向かいさんに恋をして
「あ、さくらちゃん!」

パタパタと後ろ手に手招きをしている。
お姉さん、私まで不審者にするつもりですか?

「さくらちゃんったら! 早く!」

……どうやら一緒に不審者にならないといけないらしい。
渋々留奈さんの元へ行く。

スリッパをつっかけたところで、勢いよくドアが開き、背中を押された。

「え?」

ちょっと留奈さん、何をしてくれてるんですか! 
廊下に飛び出したわたしは誰かにぶつかった。

「わっ……!」

「きゃっ! ごめんなさっ……」

ぶつかってしまった人に謝りながら顔をあげた。
急に飛び出してぶつかるなんて失礼なことをしてしまった。

後で留奈さんを叱ろう、うん。

「波江さん。大丈夫?」

「あ、秋中さん……」

見上げるとその顔が思ったよりも近くて、一気に体温が上がった。

ぽうっとして動けなくなる。
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