運命のように君を愛してる~先生との赤い糸~
【優姫】
「あっ、もうこんな時間!」
「本当だ、そろそろ帰るか…」
時計を見ると、あれからもう1時間以上が経っていた。
「私も先に帰ってるよ」
「ああ、送れなくてごめんな」
「うんうん、仕事中に来たのはこっちだし…」
「…いや、試食を頼んだのは俺たちだ。助かったよ。樹里ちゃん」
悠は樹里に微笑んだ。
「…っ」
私は樹里が悠に対して、顔を赤くしているのを見逃さなかった。
「じゃあ、俺たち…」
―――ガチャ。
帰ろうとしていると、ノックもなく渉さんが慌てた様子で社長室に入って来た。
「どうした、渉」
「なんだよ、渉。そんなに慌てて…」
「…枢、俺たちに隠してる事がないか?”あいつ”のことで…」
「……」
「”あいつ”?」
「悠も知ってるだろ?…瑠佳だよ」
その名前を聞いた途端、悠が顔色を変えた。
「どういう事だよ!?兄貴!」
「…枢のせいじゃないわよ」
突然、後ろから声が聞こえて振り返った。
「瑠佳姉…」
「悠、久しぶり♪…って。どうして雨宮さんたちがここにいるの?」
「…幸野先生こそ、どうしてここに?」
私は状況に混乱さしながらも、幸野先生に質問を返す。
…どうして、先生が会社に来てるの?
枢、悠、渉さんも顔色を変えて…
ああ、もしかしたらこの人は…。
私はなにかを悟ってしまった。
「私と枢と渉は高校時代の同級生で、…枢が唯一本気で愛してくれた『初めての女』よ」
「おい、瑠佳!」
初めて『女の勘』は恐いと思った。
「…それで、雨宮さん。あなたは枢の『なに』?」
「それは…」
…幸野先生には、絶対に枢と私の『本当の関係』がバレちゃいけない気がする。
「私は枢の―――“義妹”です。義父と母がもうすぐ再婚するので…」
「優姫…」
「大丈夫だよ、枢。私は平気だから…」
「…っ」
「そう。…おじさま、再婚するのね」
「ああ…。んで、要件は?」
「今日は悠と渉に逢いに来ただけだから…もう帰るわ。じゃあ、また明日ね。雨宮さん、一ノ瀬さん、仁田君」
「「「はい…」」」
幸野先生はそう言って、社長室を出て行った。
しばらくして、静まり返ってしまった中…枢が重い口を開いた。
「…悠」
「ん?」
「…俺、やっぱり優姫と一緒に帰っても大丈夫か?」
「問題ないよ」
「樹里ちゃんと陸君には、俺と悠から説明しとく」
「悪いな、頼む。…帰るぞ、優姫」
枢は私手をしっかりと繋いだ。
「…うん。また明日ね、2人共」
「ん」
「うん」
陸と樹里にそう言って、私と枢は無言のままウチに帰った。