伊賀襲撃前夜
「祥之介、…お前はどうなんだ」
成葉は祥之介から目を逸らし俯き加減に弱々しい声で尋ねた。
「どう?」
祥之介は何を聞かれているのか分からず眉を潜める。
「伊賀の皆が頭領の娘である私に未来を託したい気持ちはわかった。で、祥之介は、どうなんだ。…私がそばにいて共に戦っては駄目か」
絞り出すような成葉の言葉に祥之介はフッと優しい表情を見せた。
「駄目だ」
「…」
祥之介は成葉の頭に軽く右手を置いた。
「誰よりも俺が一番、お前に生きていて欲しいと願っている」
「…祥之介」
その時、
「成葉様、成葉様〜」
と、侍女が成葉を探しに来た。
「行け、呼ばれてるぞ」
祥之介は、成葉の頭から手を退けた。
成葉はゆっくり立ち上がると祥之介を見つめた。
「…死ぬなよ」
「ああ」
祥之介が力強く答えるのを確認すると、成葉は侍女の方へと歩みより、二人は奥の間へと入って行く。
「…成葉」
祥之介は、見えなくなる成葉の後ろ姿を見つめていた。
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