伊賀襲撃前夜

侍女に連れられて成葉は屋敷の奥の間までやって来た。
「成葉様をお連れ致しました」
「入れ」
中から伊賀の頭領である、成葉の父の声がして、侍女がサッと障子を開け、成葉は中に入った。
「…」
中に入った瞬間、成葉はただならぬ空気を感じ、思わず立ち止まり部屋の中を見渡した。
「座れ、成葉」
父の言葉に、成葉は部屋の中まで歩みを進め、父の横に腰を下ろし胡座をかいた。
「これが我が娘、成葉だ」
「これはこれは。噂に違わぬ勇ましく、そして美しい」
父の正面に座り、そう言って成葉をまじまじと見る見慣れぬ男を成葉は怪訝な顔で見つめた。
「正に信長様の好みの女子(オナゴ)だ」
予期せぬ男の言葉に、成葉は驚いて、父の顔を見る。
「父上、これは一体?」
「成葉、こちらは織田家からの使者の…」
「織田のっ!」
織田と聞いて成葉は反射的に片膝を立て刀の柄に手を掛けた。
「待てっ、成葉」
父は咄嗟に成葉の手首を抑え、刀を抜かせないようにし、座り直させる。
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