伊賀襲撃前夜
「五関殿、少し娘と二人きりで話しをさせて頂きたい」
織田からの使者、五関源吾衛門(ゴセキ ゲンゴエモン)にそう言って頭を下げると、父は成葉をこの間からを離れた部屋へと連れて行った。
部屋に入ると直ぐに成葉が口を開く。
「どういう事なのですかっ、父上。明日にでも戦が始まるというのに、織田の使者と何の話しをされているのですっ」
「落ち着け、成葉」
父は成葉の肩を上から押さえ、座らせ、自分も正面に座った。
「良く聞け、成葉」
「…」
「お前の言う通り、このままでは明日、織田は攻めて来る」
「攻めて来たら、打ち返すのみっ」
「そうだ、伊賀に踏み込み攻め入る者がいれば、我等は何としても伊賀を守らねばならない」
「はい」
「だが、それは同時に、多くの者の命を奪うことにもなる」
「…」
成葉の脳裏に先程別れた祥之介の顔が浮かんだ。
「特に今度の相手は、天下統一を果たさんとして勢いを増している織田信長だ。多勢に無勢、戦わずとも結果は見えている」
「父上っ、そんな弱気な事で、どうするのですっ」
「弱気なのではない、これは事実だ」
「父上…」
「噂に聞けば信長は己の目的の為なら、情け容赦ない男。我等が刃向かえば刃向かうほど全滅するまで攻めて来るであろう」
「全滅…」
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